聖ヴェロニカ風自画像

2015, blotting paper 39.5 x 39.6 cm

 

イメージは顔からはじまり、顔からおわる。そのはじまりの顔のひとつが、聖 ヴェロニカの布の話である。聖ヴェロニカは十字架の道行きの途中のキリスト に自らのヴェールを差し出した。キリストがそれで顔を拭いたところ、布には 彼の顔の像が浮かび上がったという。あたかも光り輝く彼の顔が布を「露光」 したかのように。聖ヴェロニカがキリストの顔を拭いたという布は、聖遺物の 一種として各地で信仰の対象となっている。そこに浮かぶイメージをある者は 「奇蹟」とよび、ある者は「写真」と言った。わたしはこの話を、あぶらとり 紙を使うたびに思い起こす。あぶらとり紙ももとは、金箔の裏打ち紙を京都の 遊女たちが化粧直しに用いたものらしい。そういえばヴェロニカも、一説によ れば遊女のような存在だったようだ。 ところで、絵を描くときの素材選びでひとつの分岐点となるのが、顔料を何の 油で溶くか、ということである。テレピン油ならいわゆる油彩画となり、膠で 溶いた顔料を用いれば日本画になる。顔自身の皮脂で顔を描いたものは二重の 意味で自画像と言っていいだろう。

 

Self Portrait After St.Veronica